ここでの内容は、構造・機械設計からCAE解析(FEM)、さらには振動解析や最適設計に至るまでの内容にフォーカスした項目で、それぞれ剛性の導出方法を記載しています。
剛性の意味や性質について詳しく知りたい方は、下記の記事をご参照ください。

各剛性の意味と計算方法が分かると、いろいろな場面で応用できます。
例えば、橋梁設計において剛性を適切に考慮することができれば、荷重に対する安全性と耐久性を高めることが可能となり、より安全な構造物が出来上がります。
剛性の種類(解析・動力学編)
剛性を理解するためには、物体の変形をいくつかの代表的なパターンに分けて考えることが重要です。
例えば、橋梁設計では曲げ剛性が橋桁のたわみを抑えるために重要な役割を果たし、自動車設計ではねじり剛性が車体の安定性に直結します。
具体的には、軸変形、曲げ変形、せん断変形、ねじり変形の4つに分類でき、それぞれに対応する剛性があります。
これらの剛性は、材料の弾性率や断面積、断面二次モーメントなどの断面特性に加え、変形する部材の長さや形状によっても決まります。
以下に、それぞれの剛性の種類と導出方法を記載していきます。
軸剛性
軸方向に加わる荷重に対する剛性は「軸剛性」と呼ばれ、次の式で表されます。
$$k_{N}=\frac{N}{δ_{N}}=\frac{AE}{l}$$
kN:軸剛性
N:軸方向の荷重
δN:軸方向の変形量
E:ヤング率
A:断面積
L:部材の長さ
軸剛性の導出
軸剛性の式は、フックの法則に基づいて次の手順で導出されます。
フックの法則は、材料の弾性範囲において応力σ(シグマ)とひずみε(イプシロン)が比例関係にあることを示しています。これを式で表すと、
$$σ=Eε$$
となります。
σ:応力 [N/m²]
E:ヤング率 [N/m²]
ε:ひずみ [無次元のため単位なし]
応力σは、軸方向の荷重Nを部材の断面積Aで割ることで求められます。
$$σ=\frac{N}{A}$$
ひずみεは、部材の軸方向の変形量δNを元の部材の長さlで割ることで得られます。
$$ε=\frac{δ_{N}}{l}$$
フックの法則が成り立つ式σ=Eεに、
$$応力σ= \frac{N}{A}$$
とひずみ、
$$ε=\frac{δ_{N}}{l}$$
を代入します。すると、
$$σ=Eε$$
$$\frac{N}{A}=E×\frac{δ_{N}}{l}$$
となります。
ステップ4で代入した式を変形量δNについて解くと、
$$\frac{N}{A}=E×\frac{δ_{N}}{l}$$
$$\frac{N}{A}×\frac{l}{E}=\cancel{E}×\frac{δ_{N}}{\cancel{l}}×\frac{\cancel{l}}{\cancel{E}}$$
$$δ_{N}=\frac{Nl}{AE}$$
軸剛性kNは、軸方向の荷重Nを変形量δNで割ったものとして定義されます。よって、
$$k_{N}=\frac{N}{δ_{N}}$$
となります。
ステップ6で求めた剛性の定義式に、
$$\delta_N = \frac{Nl}{AE}$$
を代入すると、
$$k_{N}=\frac{N}{δ_{N}}$$
$$k_{N}=\frac{N}{\frac{Nl}{AE}}$$
となり、式をさらに整理すると、
$$k_{N}=\frac{N}{\frac{Nl}{AE}}$$
$$=\frac{\frac{N}{1}}{\frac{Nl}{AE}}$$
$$=\frac{\cancel{N}AE}{\cancel{N}l}$$
$$=\frac{AE}{l}$$
となり、これにて軸剛性が得られます。
せん断剛性
せん断力に対する剛性は「せん断剛性」と呼ばれ、次のように定義されます。
$$k_{S}=\frac{Q}{δ_{Q}}=\frac{GAκ}{l}$$
Q:せん断力
G:剛性率(せん断弾性係数)
A:部材の断面積
κ(カッパ):形状係数(断面の形状による補正値)
$l:部材の長さ$
せん断剛性の導出
せん断力Qによる変形量δQは次のように表されます。
$$δ_{Q}=\frac{Ql}{GAκ}$$
せん断剛性kSは、せん断力Qをせん断変形量δQで割ることで定義されます。よって、
$$k_{S}=\frac{Q}{δ_{Q}}$$
となります。
先ほどの式、
$$k_{S}=\frac{Q}{δ_{Q}}$$
のδQのところにステップ1で定義した式を代入すると、
$$k_{S}=\frac{Q}{δ_{Q}}$$
$$=\frac{Q}{\frac{Ql}{GAκ}}$$
となり、さらに式変形すると、
$$k_{S}=\frac{Q}{\frac{Ql}{GAκ}}$$
$$=\frac{GAκ\cancel{Q}}{\cancel{Q}l}$$
$$=\frac{GAκ}{l}$$
となります。
【ポイント】κは定義方法によって、式のどこに来るかが変わる。
多くの文献では「κA が有効せん断断面積」という書き方をし、最終的に、
$$k_{S}=\frac{GAκ}{l}$$
となって係数が分子にくることが多いです。
一方、「A/κ」を有効断面積とする書き方がなされている場合は、
$$k_{S}=\frac{GA}{lκ}$$
となって係数が分母にきます。
κ が分子にくるのか分母にくるのかで一見混乱しますが、いずれも定義の差異にすぎず、物理的な意味(有効せん断断面積が「実際の断面積×何割か」になっている)自体は同じです。
もし文献や教科書によって式の形が違う場合は、「κはどう定義しているか?」「有効断面積はAκか、A/κ か?」を確認するとよいです。
計算の途中式を自分で導く際も、最初に「有効断面積」をどのように設定しているかを明示しておくことでここの混乱は避けられるかと思います。
曲げ剛性
曲げ荷重に対する剛性は「曲げ剛性」と呼ばれ、以下の式で表されます。
$$k_{B}=\frac{M}{θ}=\frac{EI}{l^3}$$
M:曲げモーメント
EI:曲げ剛性(ヤング率Eと断面二次モーメントIの積)
θ:部材の曲げ角
$l:部材の長さ$
曲げ剛性の導出
曲げモーメントMによる部材の変形は、部材の曲げ角θと関連します。この関係は以下のように記述されます。
$$M=EI×\frac{\mathrm{d}^2w}{\mathrm{d}x^2}$$
$\frac{\mathrm{d}^2w}{\mathrm{d}x^2}$:曲率(部材の変形量の2階微分)
曲げ剛性k_Bは、曲げモーメントMを曲げ角θで割ることで定義されます。
$$k_{B}=\frac{M}{θ}$$
部材の長さl全体にわたる曲率を積分して曲げ角θを求めます。
$$θ=\int_0^l \frac{\mathrm{d}^2w}{\mathrm{d}x^2}dx=\frac{Ml^2}{EI}$$
このθを$k_B = \frac{M}{θ}$に代入します。
$$k_{B}=\frac{M}{θ}$$
$$=\frac{M}{\frac{Ml^2}{EI}}$$
簡約すると、
$$k_{B}=\frac{EI}{l^3}$$
となります。
【ポイント】$k_{B}=\frac{EI}{l^3}$ははりの曲げ剛性を“ある特定の変形モード・境界条件で定義したときに出てくる代表的な形。
先ほどステップ4で中途式、
$$θ=\frac{Ml^2}{EI}$$
を代入したとき厳密には、
$$\frac{M}{θ}=\frac{M}{\frac{Ml^2}{EI}}=\frac{EI}{l^2}$$
となりますが,実際の構造解析問題ではもう1段階「形状関数の係数」などが入ってきて$l^3$の形になっているケースが多いです。
したがって「ここでさらにどうやって$l^3$が出てくるのか?」につきましては、対象とするビームの境界条件や、有限要素法の仮定を細かく追う必要があります。教科書や文献ごとに微妙に係数が異なるのはまさにそのためです。
ねじり剛性
ねじり荷重に対する剛性は「ねじり剛性」として次の式で表されます。
$$k_{T}=\frac{M_{T}}{ϕ}=\frac{GJ}{l}$$
$M_T$:ねじりモーメント
$G$:剛性率(剪断弾性係数)
$J$:ねじり定数(円形断面では断面二次極モーメントに等しい)
$l$:部材の長さ
$ϕ$:ねじりモーメント$M_T$による変形角
ねじり剛性の導出
ねじりモーメント$M_T$による変形角$\phi$は以下で表されます。
$$ϕ=\frac{M_{T}l}{GJ}$$
この式は、「単純にトルクMTを与えたときのねじれ量」が、部材の「材質(= G)」「断面形状(= J)」「長さ(= l)」にどう依存するかを示しています。
- Gが大きい(剛性率が大きい素材)ほど、変形しにくい。
- Jが大きい(断面が太い・外径が大きい)ほど、変形しにくい。
- Lが長いほど、変形しやすい。
- 与えられるトルクMTが大きいほど、ねじれ角は大きくなる。
ねじり剛性$k_T$は、ねじりモーメント$M_T$をねじり角$\phi$で割ることで定義されます。
$$K_{T}=\frac{M_{T}}{ϕ}$$
$\phi = \frac{M_T \cdot L}{GJ}$をステップ2で定義したKTの式に代入すると、
$$K_{T}=\frac{M_{T}}{ϕ}$$
$$K_{T}=\frac{M_{T}}{\frac{M_{T}l}{GJ}}$$
となり、さらに整理すると、
$$K_{T}=\frac{M_{T}}{\frac{M_{T}l}{GJ}}$$
$$K_{T}=\frac{\frac{\cancel{M_{T}}}{1}}{\frac{\cancel{M_{T}}l}{GJ}}$$
$$K_{T}=\frac{GJ}{l}$$
が得られます。
【ポイント】ねじり剛性の応用例
車両設計:ドライブシャフトの設計では、ねじり剛性がトルク伝達と耐久性に直結します。
工具設計:ボルト締め工具では、適切なねじり剛性を確保することで変形を抑制し、作業効率を向上させます。
航空機設計:翼や胴体構造ではねじり剛性を考慮して、荷重の分散と構造の安定性を確保します。
このように剛性にはさまざまな種類があり、それぞれの種類ごとに適切に扱うことができれば設計や材料選定を効率よく行えます。
4つの剛性がわかっているとどんなことにメリットがあるのか
4種類の剛性(軸剛性、せん断剛性、曲げ剛性、ねじり剛性)を理解することで得られる具体的なメリットについてご紹介します。
構造物の安全性向上
各剛性を適切に考慮することで、構造物が外力に耐える能力を正確に評価できます。
軸剛性:橋梁や高層建築の柱設計で、垂直荷重に耐えるための強度を確保。
せん断剛性:地震や風圧によるせん断力を適切に分散させ、安全性を高める設計を実現。
曲げ剛性:部材のたわみや曲がりを抑えることで、耐久性と使用感を向上。
ねじり剛性:ドライブシャフトなどでトルク伝達の効率を最適化し、故障リスクを軽減。
製品性能の向上
剛性を正確に分析することで製品の性能を最適化し、顧客満足度を向上させられます。
例えば、自動車の車体剛性を最適化することで、走行安定性や操縦性が向上し、工具や機械部品の設計では、剛性不足による不具合を未然に防止することができる。
設計の効率化とコスト削減
剛性を理解し計算に活用することで、不適切な過剰設計を防ぎ、コスト効率の良い設計が可能になります。
- 軽量化が求められる航空機や宇宙構造物の設計では、剛性を考慮しつつ強度を確保。
- 建築設計では材料選定を最適化することで、資源の無駄を削減。
解析精度の向上
各剛性を把握していれば、CAE解析(有限要素法など)などの場面で高精度なシミュレーションを実現することが可能になります。
- 各剛性を考慮したモデルを構築することで、シミュレーション結果の信頼性が向上。
- 動的解析(振動解析など)で、固有振動数やモードを正確に評価可能。
トラブルシューティング能力の向上
構造物や製品の不具合が発生した際に、剛性の観点から問題を迅速に特定することができます。
振動が多い設備ではねじり剛性不足を見抜き、設計変更で改善できたり、曲げ剛性不足によるたわみや破損を防ぐ補強策を提案したりすることができます。
まとめ
剛性は物体の変形しにくさを表す重要な物理量であり、設計や分析の際には欠かせない要素となります。
正確な剛性の理解はより安全で効率的な製品や構造物の開発につながります。ぜひ今回の内容を参考に、剛性の概念を実際の設計や評価に活用してみてください。