安全率の基礎知識と計算方法

構造物や材料の安全性が保てているかどうかを判断するために、設計の世界では安全率を使って評価を行うことがよくあります。

安全率は材料力学を学ぶ上での基礎的な知識であり、実践的な計算方法を駆使して求めることができます。

安全率を適切に設定することにより設計や施工の信頼性を高め、不測の事態や事故を未然に防ぐことができます。

本記事では安全率とは何か、安全率の定義や計算方法を詳しく解説し、読者が自信を持って安全性を評価できるようサポートします。

目次

安全率とは?

安全率(Safety Factor)とは、構造物や材料を安全に使用できるようにするための考え方で、どれだけ安全に設計できているかを示す数値になります。

土木・建築業界では安全係数と呼ばれています。

予想される最大の負荷に対して、どれだけ余裕を持って設計されているかを示す指標です。

簡単に言うと、「材料が壊れずに安全に使える許容範囲」を表す数字のことです。

安全率の公式は以下の式となります。

$$σ_{a}=\frac{σ_{S}}{S}$$

σa:許容応力
σs:基準応力
S:安全率

基準応力σsと許容応力σaの比を安全率Sと呼び、荷重条件と材料定数などによって決められます。

安全率は大きな数値になればなるほど物は壊れにくく頑丈になりますが、数値が大きすぎると材料コストや重量が増して実際の使用条件に合わない場合がでてきます。

以下に安全率Sの使用例を記載します。こちらの表は安全寄りな表となっているので、実際の設計場面で使用する状況次第ではもう少し数値を低く見積もる場合があります。この後にご紹介します計算問題ではこちらの表を使っていきます。

材料静荷重繰り返し荷重交番荷重衝撃荷重
35812
鋳鉄461015
木材7101520
安全率Sの使用例

安全な応力の考え方

材料を安全に使用できるようにするには、発生する応力が材料の耐えることのできる応力よりも低いことが必要です。

材料に発生する応力を使用応力といい、材料の安全を保障できる最大使用応力を許容応力といいます。

許容応力を決める基準となる応力を基準応力といい、選定する材料や使用方法から決定します。

安全な応力の考え方における「使用応力」、「許容応力」、「基準応力」のそれぞれの解説をまとめるとこのようになります。

使用応力(実際の応力)

  • 定義:使用応力は実際に構造物や材料にかかる応力のことを指します。これは日常の使用条件下での荷重や力によって生じる応力です。
  • :橋の上に車両が通過することで生じる応力や、建物の上に人や家具があることでかかる応力。

許容応力(安全に許容できる応力)

  • 定義:許容応力は、材料や構造が安全に耐えられる最大の応力を示す値です。これは設計時に考慮される許容範囲であり、材料の強度や特性に基づいて選定していきます。
  • 計算方法:許容応力は材料の引張強度や圧縮強度を基に、一定の安全率を設けて計算します。
  • :鉄の許容応力が200 MPaであれば、それを超えない範囲で設計を検討しないといけません。

基準応力(設計基準としての応力)

  • 定義:基準応力は、特定の設計基準や規格に基づいて設定された応力のことです。これは材料の特性や使用条件を考慮した上で、設計時に安全性を確保するための基準となります。
  • :ある構造物の設計において基準応力が150 MPaと設定されている場合、この値を基に構造物・製品の設計が行われます。

基準応力の決め方

基準応力は構造物や材料の設計において重要な要素です。適切な基準応力を設定することで安全性や信頼性を確保し、設計の妥当性を評価することができます。

ここでは基準応力がどのように選定されているのか、その一例を以下に記載します。

材料や荷重条件基準応力
軟鋼・アルミ二ウムなどの塑性材料降伏点・耐力
鋳鉄などのもろい材料引張強さ(極限強さ)
繰り返し荷重を受ける材料疲労限度
高温で使用する材料クリープ限度
基準応力の決め方_例

例えば、鋼や鉄のような一般的な応力曲線図を描くようなものでは、引張強さを基準応力とすることが多いです。

一方で、降伏点を持たないアルミニウムなどの材料においては、応力-ひずみ線図において耐力を基準応力とすることが一般的です。

鋼や鉄のような材料では応力-ひずみ線図上に明確な降伏点が現れ、どの時点で材料が降伏するかが視覚的に確認できます。しかし軟鋼やアルミニウムなどの塑性材料では、降伏点が明確に示されないため、材料の降伏がどの時点で発生するのかを判断するのが難しくなります。

このような背景から、耐力を降伏点の代わりとして用いる必要があります。具体的には、0.2%耐力という考え方を採用し、試験によって得られたデータをもとに実用的な耐力の数値を決定します。

この方法により降伏点が不明確な材料に対しても、信頼性のある強度評価が可能となります。したがって0.2%耐力は塑性材料の特性を考慮した上で、実用的な設計に役立つ重要な指標となります。

計算問題

例題

30kNの引張静荷重を安全に受ける鋼製丸棒の直径を求めなさい。材料の引張強さを400MPa、降伏点を230MPaとする。

例題のキーポイント

今回のような安全率を取り扱う問題では安全率の公式に当てはめて計算していくような流れですが、どんな材質の材料なのか、受けている力はどのような状態か(引張・圧縮方向なのか)を先に把握しておくと早く計算できます。

  • 材料が鋼材なので、降伏点を基準応力とする。
  • 静荷重なので安全率を3とする。
  • 許容応力が発生するときの鋼材丸棒の直径dを求める。

例題の解答

安全率の公式と応力の公式を使って直径dを求めます。

安全率の公式

$$σ_{a}=\frac{σ_{S}}{S} ・・・(1)$$

公式と応力

$$σ_{a}=\frac{P}{A}$$

$$=\frac{P}{\frac{πd^2}{4}}$$

$$=\frac{4P}{πd^2} ・・・(2)$$

式(1)と式(2)を連立させて計算。

$$\frac{σ_{S}}{S}=\frac{4P}{πd^2}$$

$$\frac{σ_{S}}{S}×\frac{π}{4P}=\frac{\cancel{4}\cancel{P}}{\cancel{π}d^2}×\frac{\cancel{π}}{\cancel{4}\cancel{P}}$$

$$\frac{σ_{S}π}{S4P}=\frac{1}{d^2}$$

$$d^2=\frac{S4P}{σ_{S}π}$$

$$d=\sqrt{\frac{S4P}{σ_{S}π}}$$

$$=\sqrt{\frac{3×4×30×10^3}{230×π}}$$

$$=12.88699・・・=12.89mm$$

解:直径12.89mm

まとめ

安全率は設計における重要な指標であり、適切に活用することで構造物や材料の信頼性を大いに向上させることができます。

今回の内容を通じて安全性評価の基礎を理解し、実践的な知識を身につけることができたなら幸いです。

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