材料力学の基礎を理解するためには、さまざまな荷重条件の下での構造物の挙動を把握することが不可欠です。
本記事では「軸荷重の組み合わせ問題」を取り上げ、異なる荷重の組み合わせが構造物に与える影響について考察します。
軸荷重
軸荷重とは物体にかかる力のうち、物体の軸に沿った方向にかかる荷重のことを指します。
例えば、柱やシャフトなどの構造物では、上からの重さや横からの力がかかることがありますが、その中で軸に沿った方向に作用する力が軸荷重です。
材料力学において、軸荷重は以下のような場面でよく利用されます。
- 構造物の設計
柱や梁などの構造物において、どれだけの荷重に耐えられるかを評価するために軸荷重が用いられます。特に、圧縮や引張に対する強度を確認する際によく出てきます。
- 応力解析
軸荷重がかかる部材では、材料内部に生じる応力(引張応力や圧縮応力)を計算する必要があります。外部から応力が加わったとき、どのくらいまでだったら材料が破損しないかをFEM解析などを使って判断していきます。
軸力と軸荷重の違い
引張荷重や圧縮荷重のように、力の作用線が材料の軸線(中心線)に沿って働くものを軸荷重といいます。一方で、材料の力の作用線に垂直な仮想断面に発生する内力を軸力と呼びます。
上記のような観点から、軸荷重とは材料の軸方向に働く外部からの力のことを指しており、軸力とはその軸方向に発生する材料内部の力を表しています。
異なる材料が2つ以上ある場合の荷重の計算問題と材料が一つの場合の違い
複数の異なる材料が組み合わされ、そこに軸荷重(引張・圧縮荷重)が発生している場合、材料が一つの場合とは次の点で考え方が異なります。
- 材料特性の違いを考慮する必要がある
材料Aと材料Bでそれぞれ異なる部材があったとき、AとBでは縦弾性係数が異なるため、同じ荷重がかかっても変形量が異なります。縦弾性係数の違いにより、各材料がどれだけ変形するかを個別に計算し、それを合算する必要があります。材料AとBの縦弾性係数は、
$$縦弾性係数E=\frac{σ}{ε}$$
より求めることができます。
- 全体の変形量(λ)の合成
異なる材料が2つある場合、両端にかかる荷重は同じ10kNでもそれぞれの円筒での変形量(λ)が異なるため、各円筒での圧縮量を別々に計算し、最終的にそれらの変形を合計して全体の圧縮量を求める、という計算方法で進めていきます。変形量の算出については、
$$λ=λ_{1}+λ_{2}$$
と式を立て、λ1=材料A、λ2=材料Bとおいて個別に計算すると最終的に全体の変形量が決まります。
材料が1種類のときは均等に荷重がかかりますが、複数の異なる材料が組み合わされていた場合、縦弾性係数や断面積の違いによって荷重が異なる割合で分布されることになります。
このため各部材ごとに変形量と応力を求め、それを合わせて全体の圧縮量を算出する必要があります。
アキシアル荷重と軸荷重
ベアリング製品のカタログなどによく出てくる単語で、軸と同一方向にかかる荷重のことをアキシアル荷重と呼びます。
お察しの通り、このアキシアル荷重も軸荷重と意味は一緒です。
このアキシアルは英語で書くとaxial(軸)となり、ベアリング製品では荷重の影響が製品性能を大きく左右してしまうことからあえてこう呼んでいるのかもしれません。
ちなみに垂直方向にかかる荷重はラジアル荷重と呼んでいます。材料力学の世界ではよく垂直応力と言ったりしている荷重のことですね。
主にラジアル荷重を受ける軸受をラジアル軸受。アキシアル荷重を受ける軸受をスラスト軸受といいます。
計算問題
例題1
直径80mm、長さ300mm、縦弾性係数200GPaの円筒Aと、直径120mm、長さ150mm、縦弾性係数100GPaの円筒Bが中心軸を合わせて組み合わされ、その両端に10kNの圧縮荷重が作用している。全体の圧縮量を求めなさい。
ポイント
縦弾性係数の式
$$E=\frac{Pl}{Aλ}$$
をλ=~~~という形に式変形し、その式から全体の圧縮量を求める。
なぜ、縦弾性係数の式が上記のようになるのかについては、
$$①応力の式σ=\frac{P}{A}$$
$$②縦ひずみの式ε=\frac{λ}{l}$$
の二つの式を
$$③縦弾性係数の式E=\frac{σ}{ε}$$
の式にそれぞれ代入してあげると求まります。ココの導出についての内容は以下の記事でまとめています。
例題1の解答
円筒Aの圧縮量をλ1、円筒Bの圧縮量をλ2として最初にそれぞれの圧縮量を計算し、その後全体の圧縮量を求める。
円筒Aの圧縮量
$$λ_{1}=\frac{Pl_{1}}{A_{1}E_{1}}=\frac{\frac{Pl_{1}}{1}}{\frac{πd_{1}^2E_{1}}{4}}=\frac{4Pl_{1}}{πd_{1}^2E_{1}}$$
$$=\frac{4×10×10^3×300}{π×80^2×200×10^3}=0.005968$$
λ1=0.005968mm
円筒Bの圧縮量
$$λ_{2}=\frac{Pl_{2}}{A_{2}E_{2}}=\frac{\frac{Pl_{2}}{1}}{\frac{πd_{2}^2E_{2}}{4}}=\frac{4Pl_{2}}{πd_{2}^2E_{2}}$$
$$=\frac{4×10×10^3×150}{π×120^2×100×10^3}=0.001326$$
λ2=0.001326mm
全体の圧縮量を求める
$$λ=λ_{1}+λ_{2}$$
$$=0.005968+0.001326=0.007294mm=7.29×10^{-3}mm$$
解:全体の伸びλ=7.29×10-3mm
例題2
外径12mm、ねじ山のピッチが1.75mmのボルトとナットで部材Aと部材Bを45mmの厚さで締め付けている。このときボルトの軸部に180MPaの引張応力が発生している。ここでナットを右回しに15度締め付けて増し締めした。ねじの有効断面積84.3mm2、縦弾性係数を206GPaとしたときのボルトの軸部に発生する引張応力の増加分を求めなさい。
ポイント
変形はボルトだけに発生するものと考え、ナットを10°回転させた時の変位と同じ長さだけボルトがボルトが伸ばされる、と考える。
この問題は、ボルトとナットの締め付けによる引張応力の変化を求めるものです。
ナットを回しても実際にはボルトの軸部のみが伸びるという考え方を指しています。
ナットを回すことでボルトが引っ張られ、その結果ボルトに引張応力が生じます。
このとき、ナットの回転角度からボルトの伸びを求めることができます。
そしてボルトの伸び(λ)は以下のような式が成り立ち、この式よりボルトの変位量を求めることができます。
$$ボルトを回転した時の変位$$
$$=\frac{ピッチ[mm]×ボルトを回転させた角度[°]}{360°}$$
例題2の解答
縦弾性係数Eの公式
$$E=\frac{Pl}{Aλ}$$
からσ=~~~の式に整理し、ボルトに発生している応力を求める。
$$E=\frac{Pl}{Aλ}$$
$$E×\frac{λ}{l}=\frac{P\cancel{l}}{A\cancel{λ}}×\frac{\cancel{λ}}{\cancel{l}}$$
$$E\frac{λ}{l}=\frac{P}{A}$$
ここで
$$\frac{P}{A}$$
はσに置き換えられるので、このように表します。
$$σ=E\frac{λ}{l}$$
$$σ=λ\frac{E}{l}$$
この式を用いてボルトに発生している応力を求めます。ここでλは、
$$ボルトを回転した時の変位$$
$$=\frac{ピッチ[mm]×ボルトを回転させた角度[°]}{360°}$$
から求めことができますので、問題文に出てきた数値をここの関係式にあてはめます。
$$σ=λ\frac{E}{l}$$
$$σ=\frac{1.75×10}{360}×\frac{206×10^3}{45}$$
$$=222.53MPa$$
解:222.53MPa増加する。