はりの曲がり難さとはりの強さは、はりの断面形状によって決まります。
今回は、はりの断面にはどのように応力がかかっているのか、そこについて詳しく解説します。
特に曲げモーメント、断面形状、曲げ応力が今回の内容で重要になってくるので、そのあたりを詳しく深堀りしていきたいと思います。
これを読めば、断面係数と断面二次モーメントのについてよりイメージしやすくなりますので、ぜひ最後までご覧ください。
断面二次モーメントと曲げ剛性について
断面二次モーメントは、断面形状からはりの変形の様子を表すことができる係数です。
一方で、曲げ剛性は、材料の性質と断面形状をもとに「どれくらい曲げにくいか」を判断するための目安となります。
この2つの内容をもとに、断面二次モーメントと曲げ剛性がどのように関係しているのか、計算式を解きながら順番にみていきたいと思います。
下図のような中立面から任意の距離にあるyと、曲げ応力σの発生している面が中立軸に及ぼすモーメントから断面二次モーメントと曲げ剛性を考えていきます。

この曲げ応力σの式は、応力の公式から求めることができます。
$$σ=\frac{P}{A}$$
σ:応力(N/mm)
P:外力(N)
A:断面積(mm2)
ここで、微小面積ΔAの内力をΔPとおいて、ΔPについての式に書き直すと、
$$ΔP=σΔA$$
となります。
中立軸N-N’まわりのΔPのモーメントをΔMと置いたとき、ΔPのモーメントは、
$$ΔM=yΔP$$
$$=yσΔA$$
となります。
ΔPの内力によって発生する中立軸まわりのモーメントΔMを足し合わせた曲げモーメントMは、
$$M=\SigmaΔM$$
$$=\Sigma yσΔA ・・・(1)$$
と表せます。
ポイント
モーメントの求め方は、
$$M=力×距離$$
応力とひずみの定義から得られる曲げ応力σは、
$$曲げ応力σ=E\frac{y}{ρ}$$
となり、このσを先ほどの式(1)に代入すると、
$$M=\Sigma yσΔA$$
$$=\Sigma yE\frac{y}{ρ}ΔA$$
$$=\Sigma E\frac{y^2}{ρ}ΔA$$
となります。
ここで、縦弾性係数Eと曲率半径ρは定数なので、Σの前へ押し出します。すると、
$$M=\Sigma E\frac{y^2}{ρ}ΔA$$
$$=\frac{E}{ρ}\Sigma y^2ΔA$$
となります。
最後は、ステップ4で求めたモーメントの式を変形するだけです。
$Σy^2ΔA$を$I$と置き換えて式変形すると、
$$M=\frac{E}{ρ}\Sigma y^2ΔA$$
$$M=\frac{EI}{ρ} ・・・(2)$$
となります。
ここで、
$$I=Σy^2ΔA$$
は「断面二次モーメント」と呼び、断面形状の特性を表す係数となります。
ちなみに、分子のEIは「曲げ剛性」といい、材料の曲がり難さを示す目安になります。
式(2)について
式(2)の、
$$M=\frac{EI}{ρ}$$
は、はりの曲げ半径が一定のとき、曲げモーメントMが曲げ剛性$EI$に比例することを表しています。
縦弾性係数Eは各材料によって数値が異なりそれぞれの材質で決定されることから、はりの形状から決まる断面二次モーメント$I$の値が、はりの曲げモーメントと変形の関係を決定しています。
断面係数
次は断面係数についてです。
断面係数は、はりの材質には左右されず、断面の形だけで曲げモーメント(M)と曲げ応力(σ)の関係を表すことのできる係数です。
このことから断面係数っていうのは、「はりが曲げられたときに、どのくらい応力(力)がかかりにくいか」を表す強さの目安みたいなものだって覚えておくとわかりやすいです。
材質には左右されず、形状とか寸法だけで決まり、この数値が大きいほど曲げに強くて壊れにくい(いわゆる“タフな”)断面形状ってことになります。
断面係数を使ってはりに働く曲げ応力σを求める
ここからは、実際に断面係数を使ってはりに働く曲げ応力σを求めてみようと思います。
こちらも順番に見ていきましょう。
はりに荷重が作用したとき、材料内部ではこのような応力分布になっています。

このような応力分布状態から、まずははりに働く曲げ応力σを求めていきます。
はりの変形と曲げ応力の関係から、
$$曲げ応力σ=E\frac{y}{ρ}$$
$$\frac{1}{ρ}=\frac{σ}{Ey} ・・・(3)$$
となります。式(3)を式(2)へ代入し、縦弾性係数Eを消去します。すると、
$$M=\frac{EI}{ρ}$$
$$=\frac{\cancel{E}Iσ}{\cancel{E}y}$$
$$=σ\frac{I}{y}$$
が求まって、この式をさらにσについての式に直すと、
$$M=σ\frac{I}{y}$$
$$σ=M\frac{y}{I} ・・・(4)$$
となります。
式(4)は、曲げ応力σが材質に関係なく曲げモーメントと断面形状で決まります。
そして、中立面からの距離yに比例し、はりの凹凸の両表面のところで最大になる、ということを表しています。
さらに、距離yにはりの凸面までの距離をe1、凹面までの距離を-e2とおいて式(4)のyに代入すると、
$$σ=M\frac{y}{I}$$
$$引張応力σ_{t}=M\frac{e_{1}}{I}$$
$$圧縮応力σ_{c}=-M\frac{e_{2}}{I}$$
となります。ここで、
$$\frac{I}{e_{1}}=Z_{1}$$
$$\frac{I}{e_{2}}=Z_{2}$$
と置くとすると、引張応力σtと圧縮応力σcはそれぞれ、
$$引張応力σ_{t}=M\frac{e_{1}}{I}$$
$$=M\frac{1}{Z_{1}}$$
$$=\frac{M}{Z_{1}}$$
$$圧縮応力σ_{c}=M\frac{e_{2}}{I}$$
$$=M\frac{1}{Z_{2}}$$
$$=\frac{M}{Z_{2}}$$
となります。そしてこれを一般式で直すと、
$$σ=\frac{M}{Z} ・・・(5)$$
となります。この式は、はりに働く曲げ応力σを曲げモーメンMと断面係数Zによって表している公式で、「曲げ応力=曲げモーメント ÷ 断面係数」を表しています。
一般に「曲げ応力」や「断面係数を使った曲げ応力の式」などとよく呼ばれています。
断面係数と断面二次モーメントから応用できること
今回の内容は、「はりの強度設計」や「構造物の安全性評価」に関わる場面で幅広く応用できます。
具体的には、次のような分野・場面で今回の内容がよく用いられています。
建築・土木分野の構造設計
- 建物の梁や橋梁などの設計では、曲げ応力の検討が不可欠です。断面形状や寸法を決定する際に、今回のような断面係数や断面二次モーメントの理解が役立ちます。
機械設計・自動車工学など
- 自動車のフレームや機械部品のシャフト・アーム設計など、曲げ荷重を受けるパーツの強度計算にも応用されています。軽量化と強度確保のバランスを考える上でとても重要です。
大学や専門学校などでの材料力学・構造力学の学習
- 教育機関の授業や研究でも必ず取り扱われるテーマです。基礎理論を理解しておくことで、さらに応用的な構造解析へスムーズに進むことができます。
CAE(数値解析ソフト)を使った設計最適化
- FEM解析(有限要素法)などで、複雑な部材形状を解析するときの前提知識として、この断面係数や断面二次モーメントを知っていると理解が深まり、適切な性能評価ができるようになります。
ざっくりまとめると、「はりに作用する曲げ応力をどのように求めるか」や「断面形状がどれくらい曲がりにくいか」を把握できれば、素材や形状の選定、あるいは強度とコストのバランスを考慮した最適設計など、さまざまな実務や研究分野で活かせる、ということになります。
まとめ
はりが受ける曲げ応力は、はりの形状(断面二次モーメントや断面係数)によって大きく変化するため、構造設計では欠かせない検討項目になります。
断面二次モーメントは、はりの「曲がりにくさ」を数値化する指標であり、縦弾性係数Eと組み合わせることで曲げ剛性を把握できます。
そして、断面係数は、材質に依存せず、断面形状のみによって決定されるため、求めたい曲げ応力をシンプルな式、
$$σ=\frac{M}{Z}$$
で計算できるのが特徴です。
実際の設計では、必要な強度・剛性を満たすように断面形状を選び、適切な安全率を考慮しながら部材の寸法を決めていくことが重要です。
本記事を通じて、はりの内部応力や変形のメカニズムを整理できれば幸いです。実務で断面形状を検討する際や、材料力学をより深く学習する際の参考にしていただければと思います。