今回は、せん断応力の意味とせん断応力を受ける部品の計算問題についてご説明したいと思います。
せん断応力とは、材料の内部で断面に沿ってはさみのようにちぎれようと発生する力でのことです。
例えばリベットや平行キーといった部品は、せん断応力を受ける代表的な部品です。これらの部品では、荷重がどのように分散されるか、接触面積やせん断面積がどのように応力に影響を与えるかを計算することで、安全な設計が可能となります。
記事の後半では、せん断応力の性質をさらに掘り下げ、共役せん断応力や材料のせん断強さについても触れます。
これにより、せん断応力に関連する知識を幅広く習得することができます。
ぜひ最後までお読みいただき、日々の設計や解析業務に役立ててみてください。
せん断応力とは?
せん断応力 (Shear Stress) は、材料の断面に平行に働く力(せん断荷重)によって発生する内部応力のことを指します。
もっと分かりやすくいうと、はさみのように千切ろうと(せん断しようとする)力のことです。

せん断応力は材料が破壊に至る原因となる応力のひとつであり、特に接合部や部品間での荷重伝達において重要な役割を果たします。
もし、このせん断応力が材料の持つ限界(せん断強さ)を超えてしまうと、材料は壊れてしまいます。これを「せん断破壊」と呼びます。
また、部材にかかる外部の力のことは「外力」と呼び、それに対応する材料内部の力を「内力」といいます。
計算の詳細は後ほどご紹介しますが、基本的な考え方として、「断面積が大きいほど、材料内部に生じる応力は小さくなる」という性質があります。
これは部品が太くなると強くなる、という感覚的なイメージを計算で表したものになります。
せん断応力の公式
下図のような部材に外力Pが作用しているとすると、仮想断面図には外力Pと並行な内力Fが発生しています。

せん断応力はτ(タウ)という記号を使って、次のように定義されます。
$$τ=\frac{F}{A}$$
$τ:せん断応力(MPa)$
$F:せん断荷重(N)$
$A:荷重が作用する断面積(mm^2)$
また、この内力Fのことをせん断力(またはせん断荷重)といいます。
せん断応力は以下のような状況でよく発生します。
ベットやボルト接合部:これらの部品に横方向の力がかかると、接合部分にせん断力が生じます。
はりや梁の設計:端部や支点での力の分布を考えると、せん断力が計算されます。
金属の切断や加工:はさみやパンチングのように、材料を切断する際にせん断力が利用されます。
仮想的な応力ペア「共役せん断応力」について
せん断応力と似た言葉で、共役(きょうやく)せん断応力というものがあります。
材力では避けては通れない内容なので、こちらについても解説します。
例えば、以下のような図の部材にせん断応力がかかっているとします。

この図では、部材が反時計回りに回転していきそうな力のかかり方になっているかとおもいます。
もっとミクロな視点で見てみましょう。この部材内部に発生しているせん断応力τの力の向きとモーメントM1の力の向きはこのように働いています。

このようにせん断応力は微小要素にモーメントM1を発生させています。
そしてこの状態だと、部材はクルクルと反時計回りに回転してしまうので、時計回りに回転するモーメントM2が発生するように、仮想的に上下の面にτ2を設定してあげます。
するとこのような図になります。

この状態にしてあげることで材料はクルクルと回転せず、微小要素が釣り合っている状態となりました。
これらのせん断応力τ1とτ2、モーメントM1とM2はそれぞれ大きさが等しいので、この状態ことを共役せん断応力と呼びます。
共役せん断応力は仮想的に1対のτを用意することによって部材を保持させた状態として考える、って認識で覚えると分かりやすいです。
XY平面での共役せん断応力をτXYとした場合、式で表すと、
$$τ_{XY}=τ_{1}=τ_{2}$$
のようにあらわせます。

次は、実際にせん断応力を計算してみましょう。
計算問題
例題1(リベットに応力が発生している場合)
2枚の鋼板を3本のリベットで固定し、20kNの引張荷重に耐えられるように設計したい。リベットに作用する許容せん断応力が45MPaである場合、リベットの軸の直径を求めなさい。

ポイント
・3本のリベットが均等に力を分担していると仮定
この仮定により、リベット1本あたりの力(せん断荷重)を、全体の引張荷重を3等分することで求められます。
この均等分配の仮定が成立するためには、すべてのリベットが同じ直径を持ち、同じ材料でできていること・取り付けられている位置に偏りがなく、力が均等にかかる設計であることが前提となります。
均等に力を分担することから、リベット1本あたりの力は、
$$\frac{P}{3}$$
とあらわすことができます。
・リベットには、せん断荷重のみが作用するものとする
これは、リベットが引張荷重の方向と完全に直交している(90度の角度で配置されている)ことを意味します。
リベットには、曲げ荷重などの他の荷重は作用しないと見なし(実際には、多少の曲げ荷重がかかる場合もありますが)、計算のシンプル化のためせん断荷重のみを考慮してここでは計算していきます。
なので、せん断応力τの式が分かれば、あとはそこに代入していくだけなので、意外と簡単に計算できます。
例題1の解答
引張荷重をP、リベット1本に作用するせん断荷重をP’と置き、式で表すと、
$$P’=\frac{P}{3} ・・・(1)$$
許容せん断応力をτaとし、これを式で表すと、
$$τ_{a}=\frac{P’}{A} ・・・(2)$$
となる(せん断応力τの公式より)。この式(2)のP’に式(1)を代入すると、
$$τ_{a}=\frac{P’}{A}$$
$$=P’×\frac{1}{A}$$
$$=\frac{P}{3}×\frac{1}{\frac{πd^2}{4}}$$
$$=\frac{P}{3}×\frac{4}{πd^2}$$
$$=\frac{4P}{3πd^2}$$
これをdについての式に変更すして問題を解くと、
$$τ_{a}=\frac{4P}{3πd^2}$$
$$τ_{a}×\frac{3π}{4P}=\frac{\cancel{4}\cancel{P}}{\cancel{3}\cancel{π}d^2}×\frac{\cancel{3}\cancel{π}}{\cancel{4}\cancel{P}}$$
$$\frac{3πτ_{a}}{4P}=\frac{1}{d^2}$$
$$d^2=\frac{4P}{3πτ_{a}}$$
$$d=\sqrt{\frac{4P}{3πτ_{a}}}$$
$$=\sqrt{\frac{4×20×10^3}{3×π×45}}$$
$$=13.73$$
解:13.73mm
例題2(平行キーに応力が発生している場合)
断面サイズが6mm×6mmで、長さが40mmの平行キーを用いて、プーリから軸に6kNの力を伝えている。この条件下で、平行キーに生じる圧縮応力とせん断応力を求めなさい。

ポイント
・圧縮応力はプーリと接触する側で最大となるため、こちら側の値を求める
圧縮応力は、プーリと平行キーの接触面で最大値を示します。これは荷重がこの接触面で直接力が伝達されるためです。この接触面積を正確に計算することで、圧縮応力を求める基礎が出来上がります。
式で表すとこのような関係です。
$$圧縮応力σ=\frac{荷重}{接触面積}$$
・平行キーのせん断応力は、軸とプーリの境界面に発生している
平行キーがせん断される箇所は、軸とプーリがキーを通じて力をやり取りをする部分です。
式で表すとこのような関係です。
$$せん断応力τ=\frac{荷重}{せん断面積}$$
せん断面積は、キーの厚みと長さで定義されます。この例では、平行キー全体の面積を活用することで、キーがどれだけ耐えられるかを計算しようとしています。
例題2の解答
①今回の場合、圧縮荷重を受ける並行キーの面積A1は2.5mm×40mmとなります。

よって平行キーに発生している圧縮応力は、
$$圧縮応力σ=\frac{P}{A_{1}}$$
$$=\frac{6×10^3}{2.5×40}$$
$$=60MPa$$
②一方で、せん断荷重を受ける並行キーの面積A2は6mm×40mmとなります。

よって平行キーに発生しているせん断応力は、
$$せん断応力τ=\frac{P}{A_{2}}$$
$$=\frac{6×10^3}{6×40}$$
$$=25MPa$$
解:圧縮応力60MPa、せん断応力25MPa
例題3(実務・応用編)
図のようなリベット継手でリベットのピッチをp、板厚をtとしたとき、リベットや板が破壊する応力とリベット1本あたりの外力Fについて検討せよ。

例題3の解答
部材がどのように破壊されるかについては、4通りの場合が考えられます。
①リベットがせん断破壊する場合
リベット径をd、破断面積を$\frac{πd^2}{4}$、リベットに発生するせん断応力をτとすると、
$$τ=\frac{F}{A}$$
$$τ=\frac{F}{\frac{πd^2}{4}}$$
$$τ=\frac{4F}{πd^2}$$
$$τ×\frac{πd^2}{4}=\frac{\cancel{4}F}{\cancel{π}\cancel{d^2}}×\frac{\cancel{π}\cancel{d^2}}{\cancel{4}}$$
$$F=\frac{πd^2τ}{4}$$

②リベット間の板が引張破壊する場合
リベットのピッチをp、板厚をt、リベット径をd、破断面積を(p-d)t、板に発生する引張応力をσtpとおいて計算すると、
$$σ_{tp}=\frac{F}{A}$$
$$σ_{tp}=\frac{F}{(p-d)t}$$
$$σ_{tp}×(p-d)t=\frac{F}{\cancel{(p-d)t}}×\cancel{(p-d)t}$$
$$F=σ_{tp}(p-d)t$$

③板がせん断破壊する場合
リベットの中心から板の端面までの距離をe、板厚をt、破断面積を2et、板に発生するせん断応力をτpとおいて計算すると、
$$τ_{p}=\frac{F}{A}$$
$$τ_{p}=\frac{F}{2et}$$
$$τ_{p}×2et=\frac{F}{\cancel{2}\cancel{e}\cancel{t}}×\cancel{2}\cancel{e}\cancel{t}$$
$$F=2etτ_{p}$$

④リベットもしくは板が圧縮破壊する場合
リベットと板の材料強度によって、どちらが先に破壊されるかが変わります。それぞれの計算式はこのようになります。
・リベットが破壊する場合
板厚t、破断面積をdt、リベットに発生する圧縮応力をσcとおいて計算すると、
$$σ_{c}=\frac{F}{A}$$
$$σ_{c}=\frac{F}{dt}$$
$$σ_{c}×dt=\frac{F}{\cancel{d}\cancel{t}}×\cancel{d}\cancel{t}$$
$$F=σ_{c}dt$$
・板が破壊する場合
板厚t、破断面積をdt、リベットに発生する圧縮応力をσcpとおいて計算すると、
$$σ_{cp}=\frac{F}{A}$$
$$σ_{cp}=\frac{F}{dt}$$
$$σ_{cp}×dt=\frac{F}{\cancel{d}\cancel{t}}×\cancel{d}\cancel{t}$$
$$F=σ_{cp}dt$$

まとめ
今回はせん断応力とは何か、その意味について解説しました。
せん断応力が材料の限界値を超えると破壊が生じるため、その限界値を把握しておくことは、トラブルの予防にもつながります。
今回のコラムを通して、材料力学の全体像をよりしっかりと把握することができるようになれれば幸いです。